Buho No.218 目次

ドメインの話(後編)

さいとう


前回はドメイン名とは何かをお話しました。 さて,インターネット上で現在もっとも普及しているサービスはWWWです。 WWWでは,情報の「場所」の記述に「URL(Uniform Resource Locater)」 という表記法を採用しています 1。 URLは「プロトコル名」「サーバのアドレス」「ポート番号」「サーバ内でのパス」 の4つの部分からなります。例えば 「http://www.komaba.ecc.u-tokyo.ac.jp:10080/~g740443/index.html」 の場合,プロトコル名が「http://」, サーバのアドレスが「www.komaba.ecc.u-tokyo.ac.jp」, ポート番号が「:10080」, サーバ内でのパスが「/~g740443/index.html」です。 DNSのおかげでサーバのアドレスがドメイン名で指定できるので, 「http://157.82.50.210:10080/~g740443/index.html」 よりは覚えやすくなっていますが2,まだまだ長ったらしい上に インターネットに詳しくない人が見たら意味不明な部分があります 3。 このため,世の中には「さらにわかりやすいアドレス」を目指して 活動している人たちがいます。今回はそうした動きを紹介したいと思います。

脱ドメイン名

「実名」

米Centraal社4 の 「Real Name System(RNS)」や米Netword社 5 の「Netword」などは, ドメイン名の代わりに「実名」でアクセスするシステムです。 例えば,東大のホームページを表示するには,ブラウザのURLの欄に 「http://www.u-tokyo.ac.jp/」と打ち込む必要がありますが, RNSやNetwordのプラグインソフトを組み込んでおくと, 「University of Tokyo」のように打つだけで, 上記のアドレスに自動的に変換してくれます 6。 もう少し詳しく説明すると,「University of Tokyo」という文字列が入力されると, プラグインソフトはRNSやNetwordのデータベースサーバにアクセスし, 対応するURLを聞き出し,聞き出したURLにアクセスします。 つまり,ドメイン名はユーザから隠されて見えません。

NetwordもRNSもブラウザにプラグインソフトを組み込んで使うのですが, RNSはプラグインソフトを組み込まなくても利用できるよう,検索エンジンと提携し, 同サービスに登録されている「実名」での検索ができるようにしました。 AltaVistaなどの検索エンジンでは,通常の検索結果とともに, RNSの検索結果が表示されます。RNSとNetwordでは1年弱ほどNetwordのほうが サービス開始が早かったのですが,検索エンジンとの提携が功奏したのか, RNSのほうが勢いがいいようです。Centraal社はインターネット標準化団体の IETFとW3Cに「HMI(Human Friendly Identifiers)」という名称でRNSの次期 バージョンを標準として申請しており,採用されればURLに変わるインターネット上の 「住所」の標準として広く普及することでしょう。

漢字URL,TEL.TO

日本の有限会社バリアフリー7 は,日本国内のURLに代わる「場所」指定システムとして, 「漢字URL」サービスと「TEL.TO」サービス を提供しています。 漢字URLは, その名の通りURLの一部に漢字を使って場所を指定するサービスです。 しかし,現在のDNSは日本語をサポートしていないため,WWWサーバに漢字の 解釈機能を持たせて,「http://rurl.net/東京大学」のように 指定します。TEL.TOは,場所の指定に現実世界の電話番号を使う方法で, 例えば,バリアフリーのホームページは「http://TEL.TO/045-776-3524」 となります8

ドメイン名の拡張

新gTLD

現在,gTLDには ".com",".net",".org" の 3つがあり,それぞれ「商用」「ネットワーク」「非営利組織」を意味しています。 これら以外にもさまざまな意味を持ったgTLDを新設して, より多くのドメインを収容しようとする動きがあります。

.firm ビジネスまたは企業
.shop 購買できる商品を提供するビジネス
.web WWWに関連する活動を強調する組織
.arts 文化的および娯楽的な活動を強調する組織
.rec レクリエーションまたは娯楽的な活動を強調する組織
.info 情報サービスを提供する組織
.nom 個別のまたは個人の名称を希望するもの

上の7つのTLDの新設が提言されましたが, ドメイン名も含めたインターネット上の資源の管理体制をどうするかという 問題に話が広がってしまったため,TLDの新設は一次お預けとなってしまっています。

AlterNIC,Name.Space

AlterNIC9Name.Space10 は, 独自にgTLDを新設して運用しているサービスです。これらのサービスのDNSは既存の (普段我々が使っている)DNSとは切り離されて運用されているので, これらのサービスで運用されているドメインにアクセスするには, ``アクセスする側に'' 特殊な設定をする必要があります。 アクセスする人が限られている場合,その人たち全員に 設定をしてもらえばよいことですが,不特定多数の人が訪れることを期待する 目的には使えません。Name.Space に至っては新しいTLDを登録することすら 出来ます 11:D

ちなみにAlterNICでは 「.asia」「.bank」「.design」「.email」 「.film」「.faq」「.fund」「.gay」 「.games」「.globe」「.help」「.inc」 「.jpn」「.kids」「.law」「.learn」 「.ltd」「.mail」「.mag」「.media」 「.nic」「.prices」「.radio」「.service」 「.sea」「.sex」「.sky」「.space」 「.sport」「.shop」「.tour」「.travel」 「.web」「.wired」「.wine」「.xxx」 「.zoo」 などのTLDが運用されているそうです。


1) 誤解のないように言っておきますが,URLはWWW以外のサービスでも場所の表記法として使われます。
2) 文字数はドメイン名のほうが長いですが・D
3) 友達に「:10080って何?」と聞かれたら答えられますか? ・D
4) http://www.centraal.com/
5) http://www.netword.com/
6) ここでは東大がRNSやNetwordに登録されていると仮定します。
7) http://www.barrier-free.co.jp/
8) 横浜にある会社のようですね。
9) http://www.alternic.net/
10) http://namespace.pgmedia.net/
11) Name.Spaceは正規のDNSとの連携を申し込んだことがあるそうですが,断られたそうです。当たり前だって。

今野 俊一 (こんの, knn) <toknn@ijk.com>, <knn@ebony.plala.or.jp>
東京大学 工学部 計数工学科(内定), TSG(理論科学グループ)